大阪地方裁判所 平成7年(ワ)8645号 判決 1996年10月04日
原告
横山すみ子
ほか四名
被告
岡本一士
主文
一 原告らの被告に対する請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は原告横山すみ子に対し、金一六一五万一三〇〇円及びこれに対する平成六年一〇月五日(事故日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は原告横山泰助に対し、金五三一万二六二五円及びこれに対する平成六年一〇月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は原告横山完司、原告山本重子、原告大坪圭子に対し、それぞれ金四〇一万二八二五円及びこれに対する平成六年一〇月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原動機付自転車に乗車中、駐車車両に追突し、死亡した者の遺族が、右車両の保有者を相手取つて、自動車損害賠償保障法三条に基づいて、損害の賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実及び証拠上明らかな事実(以下( )内は認定に供した主たる証拠を示す)
1 事故の発生(争いがない)
<1> 日時 平成六年一〇月五日午後三時四五分頃
<2> 場所 兵庫県佐用郡佐用町淀三五一先路上
<3> 関係車両 被告保有の普通貨物自動車(姫路一一ふ八八七八号、以下「被告車」という)
横山鶴夫運転の原動機付自転車(作東町ま八五八号、以下「横山車」という)
<4> 態様 駐車していた被告車に横山車が追突した。
2 横山鶴夫の死亡(争いがない)
横山鶴夫(以下単に「鶴夫」という。)は、本件事故により死亡した。
3 原告らの地位(甲三の1ないし、四、五)
原告横山すみ子は鶴夫の妻であり、その余の原告は鶴夫の子である。
4 被告の責任原因(被告が明らかに争わないので自白したものとみなす)
被告は被告車の保有者であり、自動車損害賠償保障法三条の運行供用者に当たる。
二 争点
1 免責事由の有無
(原告らの主張の要旨)
被告は、本件事故現場の幅員が四・三メートルしかない道路であり、夕方になれば西日により西進する通行車両の運転者が前方を確認しづらいことを知りながら、単に左端に寄せて駐車しただけで、ハザードランプを点灯するとか三角標識を置くなどの措置をとらずに駐車していたもので、しかも道路交通法四五条第二項の規制に違反した駐車方法であつた。本件事故は被告にその責任がある。
(被告の主張の要旨)
本件事故現場は、ほぼ直線の道路で見通しが良く、駐車禁止場所でもなく、しかも、昼間の事故である。被告車は、事故現場道路の左端いつぱいに止めてあり、駐車後もその右側には、なお二メートル以上の道路幅がある。鶴夫が前方を見てさえいれば、西日が射そうが被告車を発見して、これを迂回して通行することは容易であつた。本件事故は鶴夫の前方不注視及び制限速度違反という全面的過失によつて起きたものであり、被告は免責される。
2 損害額全般
(原告らの主張)
<1> 逸失利益 七三〇万二六〇一円
<2> 死亡慰藉料 二二〇〇万円
<3> 葬儀費用 一二〇万円(原告横山泰助負担)
<4> 弁護士費用 三〇〇万円
第三争点に対する判断
一 争点1(免責事由の有無)について
1 裁判所の認定事実
証拠(甲一、六ないし八、乙一の1、2、原告横山泰助本人、被告本人)及び前記争いのない事実を総合すると次の各事実を認めることができる。
<1> 本件事故現場は、別紙図面のとおり、センターラインのない車道の幅員(外側線の内側から内側まで)約四・三メートルで、非市街地を東西に延びるほぼ直線の道路であり、最高制限速度は時速六〇キロメートルで、道路標識による駐車禁止の規制はなされていない。車道はアスフアルト舗装され、平坦で見通しはよく、事故当時、路面は乾燥していた。右道路の車の通行量は、本件事故日の午後四時二五分から行われた実況見分の際、五分につき一台の割合であつた。
<2> 被告は、家屋解体の仕事をしていたものであるが、別紙図面上の「納屋作業場所」において、解体作業をするため、本件事故当日の午前八時三〇分ころ、別紙図面<1>に、道路の左端いっぱいに寄せて、南側外側線にまたがる形で被告車を止め、以後、本件事故発生時まで被告車を右場所に駐車していた。
被告車は、長さ七・九九メートル、幅二・二四メートル、高さ三・一四メートルの普通貨物自動車である。
<3> 鶴夫(大正二年七月八日生、当時八一歳)は横山車を運転し、事故現場付近道路を西進していたが、被告車後部に横山車前部を衝突させ、転倒した。付近にスリツプ痕は認められなかつた。
<4> 前記実況見分時において、西日が水平よりほぼ四五度の位置にあつた。
2 裁判所の判断
1の各認定事実に照らし考えるに、被告は、自己の便宜のために被告車を路上に止めたのであるから、同車を自己の運行の用に供していたときの事故であり、自動車損害賠償保障法三条の運行によつて生じた事故ということができる。
そこで、免責事由の有無について考える。本件事故は、昼間の見通しのよい道路上で起きたもので、鶴夫が前方の注視さえ怠らなければ容易に避けることができたものであり、事故発生について鶴夫の過失は極めて大きいと言わざるを得ない。他方、被告は昼間、道路標識による駐車禁止の規制のなされていない道路上で、ぎりぎり左端に寄せて被告車を駐車したもので、過失は認められない。原告は「被告は西日によつて見通しが妨げられることを考慮して駐車に際し、駐車車両の存在を示す措置を採るべきであつた。」と主張しているが、たとえ、西日がまぶしかつたことが鶴夫の前方不注視の一因となつていたとしても、西日が原因となつて事故が起きることを予見することは不可能であり、原告主張のような注意義務はない。また、前記認定の道路及び被告車の各幅員から見て、被告の駐車行為は道路交通法四五条二項に反するものであるが、道路交通法上の違反が直ちに自動車損害賠償保障法三条の免責事由としての過失の存否の判断に結びつくものではない。
したがつて、被告の免責の主張は理由がある。
二 以上の次第で、原告らの請求はその余の点について判断するまでもなく、理由がないからこれらを棄却する。
(裁判官 樋口英明)
交通事故現場見取図